まるで小学生が遠足の日を迎えたみたいに、リョーマは昨日の夜から寝付けなかった。

気持ちが妙に、昂っている。



(明日が、特別な日だから……?)

リョーマは誰にともなくい問いかけた。


(特別な日じゃん。すごく)



自身の中で、すぐに答えは生まれた。




(桃先輩との、大事な日じゃん…)




■ Forever You ■





カーテンから洩れてくる光が眩しくて、俺は目が覚めた。

手元に放り出されてた携帯を開いて、今の時間を確かめる。




「早…」




アラームが鳴るよりも30分早く起きてしまった。
でも今から寝たら確実に遅刻するし、なんといってもはっきりと目が覚めた。


ベッドから抜け出して、手早く着替えを済ませてリビングに向かった。






「あらリョーマ、おはよう。早いわね」

「…まぁね」

「何かあるの?今日」



どきんっ


いきなり心臓が跳ねた。




「べ…別に!ゴハン」

「?? そう。はい」





出された食事を、胃に流し込むように食べた。
味なんてよくわかんなかった。

多分、母さんたちは不思議そうに俺のことを見てたけど、それには気付かないフリした。


…特にオヤジ。
その気持ち悪い目でちらちらこっち見るの止めてくんない?



何か居心地が悪くて、まだ桃先輩が迎えに来てないのに俺は荷物を持って外に出た。



「まぶしい…」




いつもより、太陽を眩しく感じた。
空もずっとずっと高い。

全部が、「特別」に思える。





「ヘンなの…」





その理由は、わかってるケド。




「越前!?」




キキィッ、と甲高い音を立てて自転車が止まり、運転して来た桃先輩がビックリしたように俺を見た。

まぁ、俺がこうして桃先輩を待ってるなんてかなり稀だしね。
……初めてかも……。




「オハヨーゴザイマス」
「お、おぅ!オハヨウ、越前」



まだ、キョトンとしている桃先輩の後ろに乗り込んで、肩に手を置く。

首を傾げてる、桃先輩。



おもしろ…




「早く、桃先輩!」

「何か機嫌いいな、今日」



どきんっ



また、心臓が跳ねた。
さっきよりも大きく。





「そ、そんなコトないっスよ!!さ、早くして」

「へいへい」





自転車が、風を切る。


今日の桃先輩は……フツーかな。いつもと変わんない。


でも。


夏が終わって、最近着るようになったこの学ランの背中は、「あの日」を思い出させる。






部活が終わったら、今日は何するんだろ………ねぇ、桃先輩?





□ ■ □ ■ □ ■





「……え?」

昼休みに、屋上で昼飯を一緒に食べてる時に、桃先輩が思い出したように言い出した。


「今日は親戚が来んだよ。だから送って行けねぇ……ごめんな?」

「…う、ん…。わかった」



ゴハンを食べていた手が、震える。
ひどく、ノドが渇く。




────ホント、悪ぃ。

────気を付けて帰れよ。





そんな声がどっか遠くで聞こえてる。
本当に済まなそうに俺に謝る桃先輩の顔も、何だかテレビを見てる感じで…違う世界のことみたい。




さっきまでは気持ちいいくらいに明るい太陽が、今はウザイ。
こんな俺なんて、照らさないでよ。

青い大きな空が、余計に俺を寂しくさせる。





ねぇ、なんで今日なの?
桃先輩。

…覚えてないの?


今日は………






□ ■ □ ■ □ ■




今日が「特別」だって思ってたのは、俺だけだったんだ。

「あの日」のことなんて桃先輩にとっては大したことなくて……
それに気付いた俺は、いつも通りに振舞うことすら痛かったのに、アンタはそうやって笑ってられるんだ。



「お帰り、リョーマ。遅かったのね」

「歩いて来たから」

「あら、桃城くんは?」

「……知らない」




なんで今日に限って一人で帰んなきゃなんないの。
桃先輩のバカ。バカバカバカバカバカ!!!

ムカツク。
ムカツクから文句言ってやりたい。
電話とかメールじゃ気が治まんないから、直接言ってやる!!

顔を見て、文句言ってやる!!!

顔を……。







気付いてよ。

アンタにとってそうじゃなくても、俺にとっては「特別な日」なんだよ?





気付いて。気付いて。気付いて……!!




今日は、一緒にいたかったのに。




無意識のうちに、携帯に手が伸びた。



『メール送信しました』






その画面が、すぐに着信を知らせるものに変わった。
そしてその発信者の名前に、心奪われる。




「……なに」

「越前!今、ヘーキか!?」





思わず、部屋を飛び出していた。



「やっと抜け出せたんだぜ」

携帯から聞こえる桃先輩の声に急かされるように、階段を一段飛ばしで駆け下りる。



「どうしても今日のうちに、お前に会いたかった」

玄関のドアを開けて。







「今日は…俺とお前が出会って半年だから」

家の前に、携帯を持った桃先輩が立っていた。




「桃先輩…」

「ごめん、遅くなって」




「…っホントだよ!」




目の前に広げられた、大きな胸に飛び込んだ。

そしてすぐに、桃先輩はぎゅうっと抱き締めてくれた。



「でも…間に合ったぜ」

「結果オーライ、って?」

「まぁな」




耳元で聞こえる桃先輩の鼓動は、すっごく早くて…痛いくらいに俺の耳を叩いている。

家から走って来てくれたんだ…。



俺の心が、ぎゅってなる。

この甘いような苦しさは、桃先輩から教わった。
こんなの、桃先輩に会った時にしかならない。




「なぁ…俺、今日は帰らねぇからな」

「ナニソレ。ウチの都合はお構いナシじゃん」

「今日は『トクベツ』……な?」



俺の身体を包む腕に、さらに力がこもった。



「……ん。ね、寒い」

「だろ?早く中に入ろうぜ」

「今日、帰りも寒かった」

「了解。責任取るよ」

「…しっかりやってくださいよ」





桃先輩、ちゃんと知ってたんだ。

じゃなきゃ、あんなメール…意味わかんないもんね。







──テニスコート、どっちっスか?──





End











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遥弥廉さんのサイトviva☆asoviva5000Hit記念フリーssです。
記念日を大切にするリョーマが可愛らしく、送信したメールの内容もナイスで、思わずさらって来ました(笑)
5000Hitおめでとうございます〜♪

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 *華瑠波*