花 −The name of the flower is a cluster amaryllis.− (05.6.3)
「その花に触れてはいけないよ」
ふいに旅人が言う。
「なんで?」
不思議そうな顔をして、少女は旅人に尋ねた。
「それはね、毒があるからさ。判ったかい××××ちゃん」
「うん、判った。キノは物知りだね」
* * * * *
「・・・・何の毒があるんだろう?」
「はい? どしたの急に」
「昔、この花には毒があるって言われたことがあるんだ」
「この花って、この赤い花?」
「そう」
エルメスに乗ったキノが走るその道の両脇には、数え切れないほどの花が咲いていた。
葉が無く、真っ直ぐ伸びた茎の上に紅い花が付いている。
群れて咲く花は、まるで燃えているように見える。
「リコリン」
「リコ?」
「だからー、リコリン。アルカロイドの一種で、口にすると嘔吐や腹痛を起こす。場合によっては死ぬこともあるよ。まあ、この花の場合は球根を食べたりしなければ大丈夫だと思うけど、茎汁も触れば人によって炎症起こすかもね」
「へぇ。流石、エルメス」
「まぁね」
少しだけ得意気に答えたエルメスは、更に付け加えた。
「東の方にある国だと、“死者を呼び寄せる花”として不吉がられてるって聞いたコトがあるよ」
瞬間、突風が吹き、花は燃え上がるように揺らめく。
「えっ?」
ギュキキキキィ !!
「・・・・って、おわっ! 何!? 急ブレーキ??」
危ないじゃん、と文句を言うエルメスの文句はキノに聞こえていないようだった。
「エルメス」
「んー」
「今、何か言った?」
「言ったよ! 急ブレーキは危ないって」
「いや、そうじゃなくて、“死者を呼び寄せる花”云々の後に」
「別に」
「そう・・・・気のせいか」
もう、忘れてしまった昔の名前を呼ばれた気がしたのは。
「さてと、今日中にこの花道を抜けてしまおう。毒に侵される前にね」
「だからさぁ 」
「『球根を食べたりしなければ、死ぬことはない』でしょ?」
あはは、ゴメンゴメンと笑いながら、キノは再びエルメスを走らせる。
「気を付けて行っておいで、××××ちゃん」
揺らめく、紅い花の向こうで誰かがそっと呟いた。
END
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++コメント++
キノの旅の中で花といえば・・・赤い花。
赤い花といえば・・・彼岸花。
という感じで、書いた話。
ちょっとだけ、ホラーチックな感じです。
「赤い」が「紅い」になってるのは「紅い」の方が『鮮やかな赤』を示すから。
変換を間違った訳じゃないですよ(笑)
「彼岸花には毒がある」と聞いた時から、小説に使ってみたいと思っていました。
背景の写真探しが楽しいです。
(ちなみに、この背景は10minutes+様からお借りしました)
しかし、1年振りの更新って・・・・いくらなんでも酷すぎる;(反省)
*華瑠波*