アイツのためにと思ったから言ったんだ。
自分の時間も大切にして欲しいと思ったから・・・・。





■ 01.「山盛りキャベツ」 ■





とんとんとんとん。
とんとんとんとん。



規則正しい音が台所から聞こえている。
それを聞きながら、居間での母と兄の会話。


「何かあったわね」
「ああ、あったな。分かりやすいヤツ」
「あんたも人のこと言えないけどね」
「・・・・亮ほどじゃねぇよ」
「きっとあの子絡みよ。ほら、最近よく話に出てくる後輩の・・・・おととり君」
「鳳だろう」
「そうそう。鳳君ね」


台所に立っているのは、ポニーテールの中学生。
ただし、髪は長くとも、れっきとした男子中学生。


彼の右手には包丁。
左手で押さえているのは黄緑色の塊・・・・キャベツ。


「何でそう思うんだ?」
「母親の勘よ」


ふふふ。
そう笑う母は、もしかしたら来るんじゃない?と近い未来を予言した。



とんとんとんとん。
とんとんとんとん。



二人の会話を知ってか知らずか、規則正しい音は続く。




「ただいま」


帰宅した次男の肩にはラケットバック。
手には通学鞄と不釣合いなスーパーの袋。


自室に荷物を置いて着替えて、そのまま台所に立った彼は黙々とキャベツを刻み始めた。


それが、三十分前の話。




「コロッケ? トンカツ?」


主語も述語もない二択。
返事をしようと兄が口を開きかけた時。



      ピンポーン



来客を告げるチャイムが鳴った。
同時に台所の音が止む。


はーい。


立ち上がった母は、パタパタと玄関へ。



とん、とん、とん、とん。
とん、とん、とん、とん。



一瞬止まった音が再開する。
様子を伺うように、音量とリズムが落とされた。



「亮ー! 鳳君が来てくれたわよー」



程なくして玄関から間延びした、母の声。



ガチャン!!



台所では包丁が手から滑り落ちる音。
続いて、舌打ち。


「・・・・あんっの、バカがっ」


怒りを露わに、ドスドスと足音を立てて台所から玄関へ。

居間を通り過ぎる時、頬が緩んだように見えたのは気のせい?


「おー、おー青春だねぇ」


と、様子を見ていた兄の独り言。
そして、玄関に向かって叫ぶ。


「かーさん。俺、トンカツー!」






台所に残された、まな板の上には千切りになったキャベツが山盛り。














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お題を見た瞬間にチャイムが鳴るところまでが、一気に思い浮かんだ話。
そのために、このお題を借りました。
……けど、何だコレ?
鳳宍でも何でもない気がする(爆)
ストレス発散のためにキャベツを刻む宍戸さん。
原因になった出来事は別に書きたいです。
チョタはこのまま宍戸家で夕飯をご馳走になってから帰りました。
宍戸さんは料理上手そうな気がします。
料理ができる男の人ってイイよね。

(2005.7.29)